映画「ノマドランド」。ホームレスじゃない!
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タイトルに魅せられて、劇場に向かった。
「 ノマドランド」。
ノマドとは、特定の場所に留まらず移動しながら暮す人を意味するらしい。
そこは、時間・場所に縛られず、仕事とプライベートを自由に折り合いが付けられるユートピア?
そして、情報機器を自在に操る者たちが集うスタイリッシュな空間?
そんな空間が映画の舞台だと勝手に思い込んでいた。
が、観始めて早々にそんな予見は断ち切られる。
主人公は、夫に先立たれ独りで車中泊生活を続けている壮年女性。
移動先でその都度に職を探し、そこで短期就労を重ねる。
劇中に出てきた職場のひとつが、amazonの物流センター。
労組結成を計ったがコトならなかったとニュースで聞いたのが記憶に新しい。なんともタイムリーだ。
また劇中に、この女性は代用教員だった頃の教え子に偶然に出会う。
「先生は、ホームレスなの? 」
「いいえ、ハウスレスよ」
この映画序盤に流れたナレーションを思い起こす。
「ホームは、それぞれのココロの中にある」
ハウスレスなれど、ホームレスではない!と。
時に彼女は、ノマドワーカ向けのイベント会場に向かう。
着いた先は、乾いた荒野の一角、殺風景な空き地。
他のノマドワーカたちも居住移動一体のクルマでやってくる。
外装やらエンジン回りはボロボロ、おんぼろバンばかり。
今流の小洒落たキャンピングカーの姿はどこにももない。
(イメージ写真下に続く)

スクリーンに登場するのは、過ぎ去りし時間を静かに噛みしめ、残された時間をゆっくりひとつひとつ確かめながら時を過ごすシミ・しわ多き者たち。
夜のキャンプファイヤー、焚火の勢いが止まった頃、火を囲む者はそれぞれの心中を静かに独白していく。
なんとも身につまされるが、時間を刻み込んだ顔とコトバは穏やかな空間をかもし出していた。
そして、イベント最終日。
「さよなら」は言わない、「じゃあ、またいつか」
今生の別れと思われる程に、長い時間、強くハグを交わしあう。
コロナ渦で3密厳守とは無縁の世界。
乾いた荒野で交わされる人たちのじっとりとしたぬくもりがこちら側にも伝わってくる。
幸せを家族と定住の場に求めず、ノマドランドに覚悟して生きるのだ、と静かに主張していた。
「ノマドランド」に生きる者は不自由や不安定を携えながら、自由な居場所を探し移動を続ける。
彼らの年齢は様々、働き方も様々、そして生き方も様々。
日本においても、多様なライフスタイルの中のひとつとなるのだろうか。
今年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法が、こんなライフスタイルを後押しするのかもしれない。
2021年公開、米国映画。
原作は、ノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」。
(*ノマドとは、英語で遊牧民の意。転じて時間と場所に束縛されない人)
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