シネマ歌舞伎、「刺青奇偶(いれずみ・ちょうはん)」。夫婦の情愛を観る。
勘三郎、玉三郎が2008年に演じた演目を、ここシネプレックスのスクリーンで観る。
「刺青奇偶(いれずみ・ちょうはん)」
江戸に戻れぬ事情を抱え、3里ばかり海向こうに江戸を仰ぎ、片田舎に住む極貧の亭主(勘三郎)と病に臥す女房のお仲(玉三郎)。
亭主が一番デースキなのは女房、二番目にデースキなのはサイコロ博打。
病重く旅立ちが近いことを悟った女房は、筆箱と裁縫箱と共に亭主を床元に呼び寄せる。
女房は、亭主の腕に刺青を刺してもいいかと亭主に伺い、亭主の腕に筆を使って下絵を画く。
描いた墨の下絵に沿って、裁縫針を使ってヒト針、ヒト針と彫るのだ。
女房が描いたのは、「お仲(女房の名)命」でなかった。
女房が描き彫ったのは、「サイコロの3の目」。
自分が亡き後に博打をさせまいとする、亭主に無言で意見するための彫り物だと言う。
(イメージ写真下に続く)

亭主(勘三郎)と女房(玉三郎)の間に交わされる情の掛け合いに涙腺が弛るむ。
いつもながらに、勘三郎の感情を込め、顔をクシャクシャにした熱演につられ、此方も顔クシャだ。
そして亭主は、恋女房の永遠に向けた旅支度を整えたいと願い、最後の博打に文無しで臨むが、無惨にも賭場を叩き出される。
その後にお出ましの賭場の親分(片岡仁左衛門)は、事情を飲み込み、この無鉄砲な輩(勘三郎)の気っ風を感じ入り、その場一発勝負の丁半博打(ちょうはんばくち)を誘う。
振られた湯飲み茶碗の中のサイコロの目は、なんと輩に微笑んだのだ。
輩は歓喜し、親分の懐から投げ出された金子(きんす)を持って、病に臥せった恋女房の元へと花道を走り去っていく。
「待ってろよー。。。死んじゃ駄目だよー。。。。。」
大いなる余韻を持って幕引となった。
幕引き後にも、波打つ情感は静まらない。
館内が明るくなり、周囲を気にし始めた時、幕引その後の亭主の成り行きが気になり始めた。
女房の旅立ちに間に合ったのか。
心安らかに女房の旅支度は整えられたのか、
女房旅立ちの後、博打から足を洗えたのか、
足を洗えず、仁義を感じて金子(きんす)を預けてくれた親分に世話になったのか。
余韻を残す演目だった。
(追記)
作家長谷川伸が創るモノガタリが、当代きっての役者を盛り上げ、観客を揺さぶる。
明治に生まれ昭和の時代に、多くの「股旅物」を書き下ろした小説家であり、劇作家であったという。
また、この演目では、片岡亀蔵が面白かった。
あの風貌で持ち前の低音響く声は、大大名の重臣やら、含みある悪代官が似合いそうだが、この演目ではチャメッケあるにぎやかし的な役柄を担っていた。色々こなすものだ。と感心してしまう。
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